「軟骨がすり減っている」は痛みの原因ではない?膝のロック機能(SHM)不全と、本当の痛みの震源地

1. 導入:注射をしても、湿布を貼っても、なぜ痛い?

(※当サロンによくある実際の相談ケースです)

  • 主訴: 階段を降りる時、膝の内側とお皿の下がズキッと痛む。正座ができない。

  • 経過: 整形外科でレントゲンを撮り、「変形性膝関節症の初期で、軟骨が少し減っています」と言われた。ヒアルロン酸注射を5回打ったが、痛みは変わらない。

「軟骨が減っているから痛い」。 これは非常に一般的な説明ですが、実は解剖学的に少し矛盾があります。 なぜなら、**「軟骨には神経(痛みを感じるセンサー)がない」**からです。 髪の毛や爪を切っても痛くないのと同じで、軟骨自体が削れても痛みは感じません。

では、あなたの膝のその激痛は、どこから来ているのでしょうか? 多くのケースで、真犯人は「軟骨」ではなく、**「関節の動きの悪さ」と「脂肪体」**にあります。

2. 一般論の否定:なぜ「筋トレ」だけでは治らないのか

「膝が痛いなら太ももを鍛えなさい」と指導され、足上げ運動(SLR)をしている方も多いでしょう。 しかし、関節の噛み合わせがズレた状態で筋肉だけ鍛えても、ズレた歯車を無理やり回すことになり、かえって炎症を悪化させることがあります。 まずは「筋力」の前に「機能(動き)」を治す必要があります。

3. 【最重要】メカニズム徹底解剖:膝の「ロック機能」が壊れている

① スクリューホームムーブメント(Screw Home Movement)とは? 正常な膝関節は、単なる蝶番(ちょうつがい)ではありません。 膝を伸ばしていくと、最後の最後(完全伸展の直前)に、下腿(すねの骨)が外側にクルッと約10度回転します。 そして、大腿骨とガチッとはまり込み、ロックがかかります。 これを専門用語で**「スクリューホームムーブメント(SHM)」**と呼びます。このロック機能のおかげで、私たちは筋力を使いすぎずに、一本足で体重を支えることができるのです。

② ロックがかからないとどうなる? しかし、太もも裏の筋肉(ハムストリングス)や膝裏の筋肉(膝窩筋)が癒着して硬くなると、膝が完全に伸びなくなります(伸展制限)。 すると、最後の「クルッ」という回転が起こらず、ロックがかからないまま着地することになります。

これは、**「鍵をかけ忘れたドア」**のようなものです。 グラグラの状態で階段の衝撃を受けるため、膝の内側や周囲の組織に強烈なねじれストレスがかかり続けます。

  • 参考文献: Moglo KE, et al. (2003). The effect of screw-home mechanism on knee stability. (膝の安定性における回旋メカニズムの重要性が示されています)

③ 真の痛みの発生源:「膝蓋下脂肪体」 ねじれストレスを受けた結果、悲鳴を上げるのが**「膝蓋下脂肪体(しつがいかしぼうたい)」です。 これはお皿(膝蓋骨)の下にあるクッションのような脂肪組織ですが、ここには痛みを感じる神経が血管と共に大量に分布**しています。 ロックのかからない膝で歩くたびに、この脂肪体が関節の隙間に挟み込まれ(インピンジメント)、炎症を起こします。

「膝のお皿の下を押すと激痛が走る」 もしそうなら、原因は軟骨ではなく、この脂肪体の炎症である可能性が極めて高いです。

4. セルフチェック:あなたの膝は伸びていますか?

  1. 床に長座(足を伸ばして座る)をします。

  2. 膝の裏を床に押し付けてみてください。

  3. この時、膝の裏と床の間に隙間がありませんか?

  4. 手のひらが入ってしまう場合、膝は伸びていません(伸展制限あり)。ロック機能が破綻している可能性大です。

5. パルク式解決策:膝を「0度」にするリハビリ

注射で脂肪体の炎症を一時的に抑えても、膝のロック機能が壊れたままでは、歩けばまたすぐに再発します。 当サロンでは、以下の手順で「構造的なアプローチ」を行います。

① 伸展制限の解除(癒着リリース) 理学療法士が徒手療法で、膝裏の筋肉(ハムストリングス、腓腹筋、膝窩筋)の癒着を丁寧に剥がし、膝が定規のように「0度」まで伸びる可動域を取り戻します。

② スクリュー機構の誘導(リアライメント) ただ伸ばすだけでなく、膝が伸びる瞬間に下腿が正しく外旋するように、手技で骨の動きを誘導します。 脳に「これが正しい膝の噛み合わせだ」と覚え込ませる作業です。

③ 内側広筋(VMO)の強化 ロック機能が復活したら、それを支えるための筋肉「内側広筋」を、パテラセッティングなどの特殊な運動で鍛えます。

6. 【有料級】セルフケア・マニュアル

膝裏の癒着を剥がす「タオルつぶし運動」です。

  1. 床に足を伸ばして座り、痛い方の膝の下に丸めたバスタオルを入れます。

  2. 膝の裏でタオルを真下にギュッと押しつぶします。

  3. この時、かかとが床から浮かないように注意してください。

  4. 太ももの前の内側(内側広筋)が硬くなっていることを指で確認しながら、5秒キープ×10回行います。

7. よくある質問 (FAQ)

Q1. 手術をしたくないのですが、回避できますか? A. 変形の程度にもよりますが、初期〜中期であれば、関節の機能を改善することで痛みを緩和し、手術を回避または先送りにできる可能性は十分にあります。まずは「伸びる膝」を作ることが第一歩です。

Q2. 水が溜まっているのですが、抜いたほうがいいですか? A. 水(関節液)は炎症の結果として溜まるものです。抜けば一時的に楽になりますが、炎症の原因(動きの悪さ)が治っていなければまた溜まります。水を抜くことより、炎症を止めるアプローチが重要です。

Q3. サポーターはずっと着けていたほうがいいですか? A. 痛みが強い時は保護のために推奨しますが、着けっぱなしにすると筋肉がサボって弱くなります。調子が良い時は外し、ご自身の筋肉で支えられるようにしていきましょう。

Q4. 温めるのと冷やすの、どっちがいいですか? A. 基本的に、ズキズキとうずくような急性の痛みや熱感がある時は「アイシング(冷却)」です。慢性的な重だるさや、動き始めの固さが気になる時は「温める」のが有効です。

Q5. 階段の上りと下り、どちらが膝に悪いですか? A. 膝関節への負担は、上りよりも「下り」の方が大きいです。下る時は体重の数倍の負荷がかかり、かつ膝を曲げながら制御する(遠心性収縮)必要があるためです。エレベーターがある場合は下りだけでも使うことをお勧めします。

8. まとめ・行動喚起

「歳だから仕方ない」と諦める必要はありません。 膝が真っ直ぐ伸びて、正しくロックがかかるようになれば、変形の進行を食い止め、痛みの少ない生活を取り戻すことは十分に可能です。

自分の膝がちゃんと伸びているか分からない方。 一度、理学療法士による関節機能評価を受けてみませんか?

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